自分はまだまだだなあと思える瞬間というのは貴重ですよね。
別に「常に謙虚であれ」とか、
そういう御託ではないんですけれども。
ちなみに僕の心の清涼剤は、桑田真澄投手でして、
なんか、すげえなあっていつも思うわけです。
ところがですね。
それを上回るすごい人に、この間、出会ってしまったんです。
場所は、ウインズ汐留。
競馬の場外馬券売り場ですね。
僕は結構競馬好きでして、休みごとに競馬競馬競馬なんですが、
その日も意気揚々と、パカパカパカとウインズへ行きました。
結構当たる予感がしていて、
到着したら、いつもどおり、朝からの配当の様子を眺めて、
馬場状態(湿ってるとか、乾いているとか)を確認して、
まず早々にラーメンを食べようと思ったんですよ。
腹ごしらえ、ですね。
それで、二階にある「スガキヤ」みたいなところに入って、
食券機で醤油ラーメンを購入すると、
「10番の番号札でお待ちください」と
やや茶髪で、世の中に常に逆切れしている風のお姉さんに言われて、
僕は近くの椅子でテレビに映る馬を見ながら待っていたんですね。
目の前には、出勤前な感じのお姉さんと、
同伴出勤に付き合う感じの強面マン。
強面マンは耳にイヤホン刺してテレビを見ていて、
お姉さんは枝毛を見ている。
またこのお姉さんがすごくて、
「当たったの?」と
「いつ帰るの?」しか言わないんです。
対して強面マンも
「黙っとけ」
しか言わない。
そんなことならとっとと別れてそれぞれ独自の道を
行くのがいいんじゃないかと提案したいところですが、これが離れない。
愛なんでしょうね。
利害をともなう愛のカタチ。
それは置いておいてですね。
しばらくすると、その逆切れ風の女の子が、
「10番の方〜♪」
と気だるい感じで呼ぶので
「はいはいさー」と
こちらは軽快な感じでラーメンを取りに行くと、
「塩ラーメンを作っちゃったんですけど、醤油ですか?」
と聞くわけですよ。
「塩ラーメンを作っちゃったんですけど、醤油ですか?」
ですよ。
ていうか、醤油でしょ!
誰がどう見ても僕の食券は醤油でしょ!
しかも「醤油ですか?」って……、
「醤油じゃないとダメなんですか?」なのか
「あんた本当に醤油だったんですか?」なのかが分からない。
もし後者だったら、誰がなんていおうと醤油です!
もうこのバカん!
と、
思ったんですけどね。
「あ、いいですよ、塩で」
とか言って塩ラーメンを食べてしまいました。
茶髪さんは、
「すいませんー」
とひとこと。
席に帰ると、同伴のお姉さんは、
相変わらず呪文のように「当たったの?」。
こっちは100%外れましたよ。
醤油だと思ったら塩が出てきましたからね。
とまあ、何が言いたいかと言うと、
今日は勝てそうだと思う気マンマンで行ったのに、
のっけからなんとも言えないムードに巻き込まれてしまった、
ということなんですね。
それでも僕は気を取り直して一路4階に。
4階が、僕の指定フロアなんです。
なんだか、よく当たる気がするフロア。
ところがですね。
これが当たらない。
塩でケチがついたのか、自信を持って挑んだ2レースを連続で外しまして、
なんだこのやろうと思っていながら3レース目。
ここぞの勝負だと結構お金をかけたわけですよ。
さていよいよレース・スタート。
僕の馬は理想的ポジション。
これで勝てなきゃいつ勝つの!的な展開。
そして、直線へ!
あ。
あ。
あああ。。。
ありえないです。
どうしてあそこから失速するのか!
そして、僕はまたしても惨敗です。
残り100メートルは見る気もしない。
周りはまだ馬券が生きている人たちの怒号が飛び交うわけですよ。
「ほら、差せ!」
「そのまま!」
「逃げろ逃げろ!」
「いけ、よしとみ!」
あ、よしとみ、は騎手の名前です。
そしてゴーーーール!
ボクはもう、さっきの塩姉ちゃんくらい逆切れですよ。
なんでやねん!という気持ちで心の防波堤は崩れそうです。
そしたら隣のおっちゃんが
「よっしゃーーーーーー!」
って。
結構いい顔してるんですよ。
馬券見つめてね。
そして、画面見つめてね。
目線があっちとこっちを行ったり来たり。
なんだよ、当たったのかよお前、
と苦虫潰した顔でおっちゃんの
顔を見たら、そのおっちゃんは、改めて言いました。
「よっしゃーーーーーー! 惜しい!!」
って。
え?
当たってないの?
惜しい、だけ?
そして馬券を覗き込むと、やっぱり当たってないわけです。
当たってないのに、惜しいという状況を、
スーパーポジティブに捉えて、やや喜んでいるんですよ。
いえ、多少は悔しそうですよ。
でも確実に、
「結果はサヨナラ負けでしたけど、最後までこの甲子園という場所で
投げきれたんで、悔いはありません。3年間一緒にやってきた仲間に、
今はただ、ありがとう。それだけが言いたいです」
みたいな満足な顔してるんですよ!
いやあ…。
それで、そのときね、僕は思いました。
ここにも桑田がいる、と。
このポジティブ感。
いやあ、僕はまだまだです。