いま、後輩の丸山くんは、幼稚園や保育園に熱烈にアポイントを取っています。
「お客さんを増やしたい」というより、僕たちのやっていることを知ってもらいたい、
そんな理由で、とにかく挨拶に行こうぜ!と僕がけしかけているので、
彼は日がな、「えーこちらアソブロックの丸山と申しますが…」
と電話をかけているのであります。
中には、
「あ、うちはレゴブロックを使っておりますので失礼します」
と一方的勘違いで切られることもあります。
園長先生も当たり前ですが相当に忙しいので、
なかなか電話口に出てもらえることはなく、
アポイントを取るなどは、夢のまた夢。
彼のパソコンのエクセルには、
「あっさり切られる」
「あっさり切られる」
「じっくり切られる」
「こってり絞られる」
といったように、うっかり見間違えるとラーメン屋のメニューではないか
というようなキーワードが書き加えられていくわけであります。
そんな彼を、営業とは本当に大変なものなんだなあと、
僕は草葉の陰から見守っているのであります。
あります。
ありますが…
やはり彼にも考えるところがあるようで、そんなある日。
遂に彼は口火を切ったのであります。
「団さん、幼稚園さんにアポイントを取るのは難しいです」
彼の思いつめた目は、まるでいつかのアコムの宣伝の犬のようです。
「やっぱり、警戒されるの?」と聞くと、彼は、
「そもそも指定業者以外、電話は取り次がない感じがします。
クーン、クーン、クーン」
と言います。
「だからと言って引き下がっていたらダメだろう、どうすればいい?」
電話をかけない僕は言いたいことを言えるのであります。
こういう質問自体が、がんばっているものには勘に触ることでしょう。
「なにかこう、キラー商品があるといいんですけどね」
という彼に、
「園が絶対欲しがる商品ってこと?」
と聞くと「ええ」
(ふたり、しばし沈黙)
そんなもの、アソブロックにはないのであります。
そもそも人が電話口で勧められて絶対欲しがる商品とは、
安いとか安くなるとか便利とかがキーワードであって、
僕たちがやっているモノづくりのコンセプトは、
聞く耳半分の電話で理解してもらえる可能性は低いのです。
「新しい価値っていうのは、今理解されないから新しいんだからね」
そんな慰めを言っても、彼の志気は下がる一方です。
そこでちょっと別のアプローチで考えてみることにしました。
「じゃあさあ、丸山、まず園長先生が確実に電話に出てくれる何かを
考えたらいいんだろ?」
「それが無理なんですって、団さん」
「キラー商品がないからでしょ? じゃなくて、絶対園長が電話に出る
電話って何かを考えようよ」
「それは、保護者からの電話とかですか?」
「うん。しかし俺たちは保護者ではないからなあ…」
(ふたり、またまた沈黙)
しかし、そんなさなか、
僕は突然思いついたのです。
「行政からの電話だったら、出るんじゃないの?」
「どういうことですか?」
「例えば、役所とかさ」
「文部科学省とかですか?」
「そうそう」
「でも団さんはしがない小さな潰れかけの会社の社長で僕はその部下、
逆立ちしても文部科学省には遠いですよ」
「そうだね。しがないと小さなと潰れかけとは余計だけれど、確かにそうだ」
「じゃあ、どうするんですか」
と、聞き返されましたが、
実は僕はそこも含めて思いついたのです。
会社にはキャッチフレーズというものがあります。
例えば、自然と健康を科学する、といえばツムラ。
ココロも満タンに、といえばコスモ石油。
それで、こういうキャッチフレーズって、電話口でも言うことが多いですよね。
例えばインテリジェンスは、
「働くを楽しもう。のインテリジェンス、佐伯です」
というように電話をかけられたり出られたりする。
これを使わない手はない、と思ったわけです。
すなはち、うちのキャッチフレーズを新しく作る。
そのキャッチフレーズとは、
「モンペ履きましょう!」
最近エコなどと言われ、大変古いものを見直したり、
リユースを大事にしたりしますよね?
もちろんアソブロックもそんなことを考えておりまして、
目をつけて訴えているのがモンペなんです、
というお題目があってのキャッチフレーズ
「モンペ履きましょう!」。
それで、丸山くんは電話口でこう言うんです。
「はじめまして。こちらモンペ履きましょうの丸山です」
すると電話口に出られた相手は、
「エッ?どちらの丸山さん?」
と聞き返すことでしょう。
そしたら丸山くんは、ややくぐもった声で
「モンペ、履きましょうです」
という。
すると先方は、
「えっ?文部科学省の丸山さん?」
となる。
そこまでいけばあとは簡単。
「園長!文部科学省から電話です!」
園長は
「なに?それは大変だ、なんだろう?すぐ回してくれ!」
となる。
しかしいざ園長が出るとそこにいるのはアソブロックの丸山くん。
不審に思った園長は言うわけです。
「キミ、文部科学省の丸山さんだよね?」
そこであせっては負けです。
「いえいえ、当方はモンペ履きましょうをキャッチフレーズにするアソブロックという
会社です。もしかすると、事務の方がお聞き違いをなさったのではないでしょうか?」
ここを冷静に乗り切れば、勝機は見えてきます。
「なーんだそうだったのか。それにしてもキミ、おもしろいねえ」
「いえいえ、とんでもないです。ところで弊社の活動のお知らせをかねて
ご挨拶に伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ。キミみたいなおもしろい人や会社を求めていたんだよ!」
「いえいえ、先生、褒めすぎですよ、ワッハッハ」
チャンチャン!
なんてどう?
と丸山くんに提案すると、
彼はかつてない冷たい目で
僕を見ていました。