
第79回 11月8日(土)
会場:連合会館(御茶ノ水)


通算79回目の家族理解ワークショップ(東京開催)は、行事や多忙等が重なったのか、普段の半分程度となる7名の方々にお集まりいただきました(初参加の方が2名)。その様子をレポートします。
【オープニングトーク】
オープニングトークでは、特に初参加の方がスムーズに場に馴染めるように、このワークショップで目指していることなどが講師の最近の興味・関心事に絡めながら話されます。
今回は、「家族問題は合理科学に基づいて解決できるものではない」という話がありました。合理性では解決できない課題や問題が相次ぐ領域において、対人援助者の熟達とは何なのか? お医者さんのように「手術」では直せない領域の熟達者とは、どうあるべきなのか。講師自身の考えや思いが話されました。
【セッション1】
セッション1は、「ぼくたち、親になる」(太田出版)の読書話から始まりました。
この本は「父親になって」をテーマに15人の体験談が掲載されているのですが、講師の読後感は「みんな、難しく考えているな!」だったと言います。そして、子育てをすることの深淵は、その時代の人々がそれを「どう語るか」とあまり関係がないと続けました。
「家族」や「子育て」といった、大昔から続く営みをどう捉えるかは、時代によっても、国によっても様々です。例えば中国では、ひとりっ子政策の際に生まれた唯一の我が子が亡くなることで大きな失望を抱えてしまう親のことを「失独者」と呼び、社会保障も含め大きな問題になっていますが、日本を含めた諸外国では、そうではありません。
言い換えると、日本で、さも本当のことのように語られる家族や子育てにまつわる話も、今という時代と日本という国の影響を受けたそれであることは間違いなく、嘘や間違いだと言いたいわけではないのですが、一方で「その程度のものだ」という冷静さも持たないといけないと、講師は言いました。
後半は、その話の流れを受けて、講師が描く漫画エッセー・木陰の物語から「深夜」を見ました。この話は、4人の子を育てる専業主婦の妻を、連日深夜帰宅の夫が「ただいま!」と言ってたたき起こし、夫婦で会話することを習慣化している実在家族が描かれています。
講師は「何を問題と定義するかが解決や支援に向けた第一歩だ」と事あるごとに言います。また、その問題の「扱い方」にも注意を払うように繰り返します。
ちなみに、このワークショップには、児童に関わる人、高齢者に関わる人、医療関係者、学校の先生などあらゆる年代の「人に対してサービスを行う人(対人援助サービスと総称)」が参加されますが、そこで共通して役立つ考え方として学んでいるのが、「家族システムへの介入による解法」です。
「家族システムへの介入による解法」とは、問題とされる個人の内面に焦点を当てるのではなく、個人の持つ関係性、中でも家族という万人が共通で持つ関係性に焦点を当て問題解決を図ろうという考え方です。言い変えると「部分はいつも全体の中にある」と考え、全体(家族の関係性)に変化を与えることで部分(問題とされている事象)を解決に導こうとすることです。
【セッション2】
セッション2は恒例で「参加者の3分間トーク」を行います。
普段の人付き合いが、職場の同僚を中心にどうしても固定化してしまう傾向がある中で、同じヒューマンサービスの職に携わりながらも、対峙する相手や取り扱う問題がまったく違う人と輪になり「最近私の周りでは…」とお互いに報告し合います。今回は運営スタッフを含め5人グループに分かれて行いましたが、それはつまり、近接領域で今起こっているいくつもの話が同時に聞けるということです。

学校や病院や介護の現場、家庭や学生たちの間で起こっている問題。それぞれは個別的でも、同じ社会を構成する人に起こっている問題であることに変わりありません。そして、それぞれが本当にまったく無関係かというと、実はそうでもないことが多いのです。
幼稚園で起こっている問題が、形を変えて高齢者の現場で起こることがあります。保護観察所の中で起こっていることが、そのまま現代の家族に置き換えられる出来事だったりもします。それらを聞きながら、整理し、改めて自分の現場や家庭で役立ててもらおうというのが、このセッションの目的です。
3分の話を聞いた後は、それをネタに7分間、メンバーでディスカッションします。すると、そこで起きている問題や課題がより明確化したり、あるいはメンバーの意見を聞くことで、発表者が事実をこれまでと違う視点から見られるようになったりします。参加前は「この3分間トークが不安で…」とおっしゃる方も時々いらっしゃるのですが、実際にやってみると、なんてことはない職場や家庭での雑談を、普段とは違うメンバーで行う感じで楽しいのですよ。
【セッション3】
セッション3は、「無知学」についてでした。
無知学とは聞きなれない学問ですが、まだ起きていない「誰も知らない」ことを扱う学問のこと。当然ですが、「起きていない」ことに人は注目しません。注目しようとすることさえ、難しいかもしれません。しかし、講師はよく「起きていないこと」に注目することの可能性について話をします。
例えば、同じ環境下で育った二人の子どもがいるとします。一人は不適切な行動を繰り返す育ちをし、もう一人はそのようにならなかった場合、多くの場合、世間や支援者の眼差しは前者に向き、「なぜ」を考え、改善に向けたアクションを取ろうとします。それ自体は悪いことではないのですが、講師は、後者の子が「なぜそうならなかったのか」を考えることにもヒントがあるのではないかと考えます。つまり「無知の中に、なんとかしてくれる知恵があるのではないか?」ということです。
支援者として仕事をする中で、目の前の課題や問題に対して、眼差しの向け方のバリエーションを持つことは、自身を助けることになります。「起きていないことに注目する」ことも踏まえて、セッション4の事例検討へ移りました。
【セッション4】
セッション4は、ジェノグラムを描きながら家族のことを考えるトレーニングです。
ジェノグラムとは家族関係を図示するものですが、このワークショップで繰り返し学ぶ技術です。この技術を学び・使い・経験を積み重ねることで、
・ジェノグラムを見て、家族関係のバランス・アンバランスを感じ取ることができる
・バランス、アンバランスから具体的な援助プランを考えることができる
というメリットがあります。対人援助職者が携わる多くの問題は、「家族」というステージの上で起きています。不登校も、DV問題も、離婚問題も、養育放棄も、介護問題も、その多くに共通するステージとして、家族があります。そのため、援助の第一歩はまずステージの状況を正しくアセスメントすること、つまり家族の構造を理解することです。
インタビューの際にポイントになるのが、「境界・サブシステム・パワー」という三つの要素およびその機能状況です。問題を抱える家族においては、それら三つのファクターの何かが「一般的ではない」ことが多く、アセスメントにおいてはそれを「家族の特徴」と見なします。そして、その特徴が問題とされる事項になんらかの影響を与えていることが多いのです。
例えば、本来であれば夫婦で話し合って決めるべきことを上世代が決めてしまっているようなケース。子どもが行く小学校を、跡取り問題に紐づけておじいちゃんが決めました、などは一般的ではありません(境界侵犯と見立てる)。それで上手く行っていれば何の問題もないのですが、仮にその経緯を踏まえて小学校に通っていた子どもが不登校になってしまったような場合は、不登校問題のように見えて、実はそうではないのかもしれません。
当事者にとっては「当たり前」になってしまっている「家族の特徴」を「一般的なそれ」に戻すことで家族というステージを整える。その結果、問題が解決に導かれることも案外多い。ざっくり言えば、これが「家族システムへの介入による解法」です。
今回は、最近講師のもとに持ち込まれた以下のような家族について検討しました。
IPは13歳の次男。16歳の長男と、4歳の妹がいます。母親は38歳の女性で、父親は全員違い、現在は未婚状態にあります。
同居家族は3人の子どもと母親に加え、41歳の長女(母の)と36歳の弟(母の)、60代後半の両親(母の)の計8人です。
さて、この家族はどんなことで困っていて、もしあなたが担当するケースだとしたら、どう支援の手を差し伸べるか。
グループになり、想像を重ねながら、開示されていく事実と向き合いました。
そんなこんなで、あっという間の6時間。
今回も学びと笑いが絶えないワークショップでした。
次回v80は、26年2月21日土曜日に開催します。
レポート執筆時点では会場がまだ未定なのですが、決まり次第お知らせしますので、専門職の方から、お母さん・お父さんまで、次回もたくさんの方のご参加を、お待ちしています!
※文中に出てくるケースや実例の内容等は、実際の講義と一部変更している場合があります
※写真は一部実際の様子とは異なるものがございます。何卒ご了承くださいませ
文責/団遊
【今回の参加者の職業・所属等(参加申込書より)】
公務員(児童相談所)、NPO法人スタッフ、児童福祉士、児童養護施設職員、園長、パート勤務、公務員
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