父にとって東京は、「うまい鰻」の場所らしい。
先日、父が東京に来て日本酒を共に飲んでいる時に聞いた話。わたしと同じ歳の頃、父はひとり先輩に誘われ、東京に来てそのまま仕事に就くかもしれなかったという。
紹介してもらった会社のオジさんに、連れて行ってもらったのが鰻屋。あったかくてホワホワで、タレもうまい。「母ちゃんがたまに、土用の丑の日にスーパーで買ってきてくれるだろう。やっぱりなんかがちょっと違うんだよね」。父がそうだから、我が家には丑の日に鰻を食べる習慣がない。娘のわたしにも、鰻が美味しいものだという認識は長らく無かった。
しかしついに数か月前、わたしもとても美味しい鰻を食べた。仕事をくれたオジさんに連れられ、静岡で鰻をご馳走になったのだ。身がホワホワで、タレがうまい。何よりオジさんの目がなくなるくらい微笑む顔に、あったかくなった。もしかしたらあの景色は、父が見たものと近しいものだったのかもしれない。
母と結婚するかも分からなかった頃、まだ何でも選べて、何にも手に入っていない頃。そんな父と、いまの自分が少しだけ重なる。
東京観光を終え、実家に帰り着いた父から「お疲れ様でした」とメッセージが届く。続いて送られてきた「また遊ぼうね!」に、不意を突かれて笑ってしまった。
私には兄が二人いる。昔から兄たちは喧嘩が多く、仲が悪かった。
二人が温かい雰囲気で会話をしているシーンをうまく思い出すことが出来ない。私は家の中でそんな二人の火に油を注がないように、そうっと生きてきた。
今は彼らにはそれぞれ家庭があり、私も一人で暮らしている。喧嘩こそないが、わざわざ会って談笑することもない。各々が生きたいように生きている。おそらく、私たち兄妹の歩んでゆく道が交わることはない。
朝の連続ドラマを観ている。ヒロインは三姉妹の長女だ。三人とも仲が良く、相談したり、協力したり、叱咤したり、互いに支え合いながら生きている。こんな兄妹羨ましいなぁ、と、ちょっとだけ思う。
と同時に立ち止まって考える。私は、私のお兄ちゃんたちに、今も昔もほんの1ミリも支えてもらっていなかったのだろうか?
目を凝らして見ないと気付かないほど小さく、想ってくれていたのではないだろうか。
一人、遠く離れたところに住む二人のまっすぐな顔を思い浮かべる。
大人になる少し前に。家族のことを話しませんか?
もし自分の家族があんな風だったら?
こんな境遇に生まれていたら?
日常のふとした瞬間に、そんなことを思います。
知らず知らずのうちに、「『家族』とはこうあるべき」という
勝手な思い込みや憧れが染み付いている。
「家族」をもっと柔軟に、いろんな角度から見つめて、考えたい。
「大人になる少し前に。家族のことを話そう」は、
そんな思いから始まった場づくりです。
3月に行った第1回目に引き続き、2回目を開催してみようと思います。
■第1回目の様子
https://www.asoblock.net/contents/kazokuevent1-report
■ イベント詳細
日時:2025年6月12日(木)19:00~21:00
場所:合羽坂テラス2号室 (東京都新宿区市谷仲之町2-10)
費用:1,500円(軽食付)
■ 申し込みは下記URLから!
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdMo9g6KjH3Fp-_0RseGeFajFb7m_gxq5z0ruKLKoMHoM193g/viewform
当日は、ご自身の家族についてお話しする時間が含まれます。
安心して話し、聞くことができる時間を作れたらと思います。
ぜひ、会場でお会いしましょう!
今回の家族コラムは、前回のワークショップへご参加いただいたNさんと、企画メンバーによる寄稿でした。
企画メンバー:
熊谷麻那(コラム上)、柴崎真直(全体文責)