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アソブロックが「統合報告書」の研究を始めたらしい ―葉山で開催された合宿の様子をレポート―

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突然ですが、みなさんは、よい会社とはどのような会社だとお考えですか?

経営が安定していること。社員がいきいきと働いていること。大きな社会的インパクトを与えられること……。その定義は、会社や個人によってさまざまかと思います。あ総研を運営するアソブロック株式会社は、「人が育つ場」がよい会社だと定義して活動を行っていますが、常に向き合い続けないといけない問いだと感じています。

そんなアソブロックが、1年ほど前より気にしているのが「統合報告書」。統合報告書とは、世界中の企業が、取引先や金融機関、投資家、従業員、消費者など、関わる全て人たちに向けて毎年発行しているもので、企業の1年間の財務情報や、非財務情報と呼ばれる自社の存在意義やビジョン、環境問題への取り組みなどがまとめられています。

つまり統合報告書から見えるのは、会社のアイデンティティ。

統合報告書の制作は、そのアイデンティティを見出していく過程にもなり得ます。その過程を、今よりも更に良い形にすることができれば、世の中にさらに良い会社が増えるのではないか。
アソブロックの代表をつとめる団遊が投げかけたそんな志向に、「面白そうだから一緒に考えてみてもいいよ!」と声を上げた5人のメンバーたち。彼らは11月某日、神奈川県・葉山に集って何やら合宿を行なったようです。今日は、その様子をこっそりとお伝えします!

あたたかい光の差し込む和室で始まった合宿。
メンバーは左から、「世の中に良い会社を増やす」を掲げるHOP株式会社 代表取締役の岩崎春夫さん。アソブロック代表の団。働き方研究家で、リビングワールド代表の西村佳哲さん。フリーで企業のブランディングやビジョンメイキング支援に携わる渡辺龍彦さん。数多くの新規事業の立ち上げに携わってきたYellWow合同会社代表の須賀裕子さん。Zebras and Companyの共同創業者の陶山祐司さんは都合が付かず欠席でした。

統合報告書とは、いったい何だろう?

2011年頃から世界的に発行され始めた統合報告書は、日本でも同時期から上場企業を中心に、近年では大学などからも発行されるようになりました。合宿では、統合報告書が発行され始めた背景やそもそもの意義について、改めて理解を深めよう、と話が始まります。

岩崎さん:みなさん、よろしくお願いします。まずは私から口火を切りますが、企業が発行している報告書には他にも種類があります。その整理からしてみましょう。現在、企業から発行されているのは、アニュアルレポートや決算短信、有価証券報告書。CSRレポートやサスティナビリティレポート。インパクトレポートなんていうものもありますね。

合宿は、事前にリサーチを進めてくださった岩崎さんによる「そもそも統合報告書とは?」という問いからスタート。

:インパクトレポートは、耳慣れないですね。

岩崎さん:企業が社会に存在する上で果たすべき責任を、まとめてCSR(Corporate Social Responsibility)と言いますよね。従業員や消費者、自然環境への配慮や、コンプライアンスの遵守などがあたりますが、そのCSR的観点で、1年間の企業活動が社会にどのように影響を与えたのか。それをまとめたのがインパクトレポートです。CSRレポートやサスティナビリティレポートも同様で、とにかく似たような目的を持った報告書が飽和している状態です。それらの報告書をすべて包括しようという流れからできたのが、統合報告書なんです。

:確かに、たくさん出してますね。僕が事前に読んできた旧昭和電工株式会社の「SHOWADENKO Report 2022」には、自分たちがどんなレポートを出しているかをまとめていた箇所がありました。

「SHOWADENKO Report 2022」p98より。企業が発行する開示情報と、統合報告書自体の編集方針がまとめられている。

岩崎さん:資本市場のグローバル化が進む中で、財務報告も国際的に統一することが必要となり、ロンドンに本部を置くIFRS(イファース)という財団により、国際財務報告基準が作られました。IFRSは財務情報に関する国際基準でしたが、それに非財務情報も加えて基準を設けたのが、統合報告書フレームワーク。それに基づいてつくられていったのが、統合報告書です。IFRSは財務報告の基準を作ってきた機関ということもあり、現状の統合報告書は、投資家へ向けた報告というというニュアンスが色濃く残っているなあという印象があります。本当にそれでいいの?ということは、さらに議論していきたいですね。

渡邊さん:そうですね。

岩崎さん:統合報告フレームワークに縛られずに、企業が伝えたいことを自分たちの表現で伝えようとしている企業も、もちろんあります。たとえば、パタゴニアやブルネロ・クチネリです。パタゴニアは「自然環境を守るための企業活動」を創業からずっと掲げていますし、ブルネロ・クチネリも「人間が尊厳を持って生きていくため」と、企業活動を定めている。そういった思想や哲学が中心にある企業は今のところ欧米に多いのですが、彼らのレポートはユニークで、訴えるものがありました。

誰のために、何のために、報告する? ―日本の大手企業を例として―

岩崎さん:私が読んできたのは、「日経統合報告書アワード2022」でグランプリを受賞した伊藤忠商事株式会社と、同業の三菱商事株式会社です。
2社を並べると、それぞれの企業カラーが際立って見えました。どちらも統合報告フレームワークにならった報告書ですが、伊藤忠商事は、たとえば目次のすぐあとに、カリスマ的な会長・岡藤正広さんの「私」を主語とした理念や価値観がメッセージとして大きく掲載されています。一方の三菱商事は、社長メッセージとして、企業組織の理念や価値観を客観的に伝えています。個人を立たせる会社なのか、組織としての総合力を重視する会社なのか。こういうところからも、企業の個性が垣間見えます。

岩崎さんが読んだ、伊藤忠商事株式会社の統合レポート(2022年度)(上)と、三菱商事株式会社の統合報告書(2023年度)(下)

渡邊さん:投資家はもちろん財務情報を中心として、どこに投資するかを判断するとは思うんですが、しかし一方で、財務情報とは異なる企業の「体質」的な違いを統合報告書から感じられることで、この会社の未来みたいなものをより解像度高く感じることはできそうですよね。

須賀さん:私は、株式会社ニッスイ、小林製薬株式会社、味の素株式会社の統合報告書を読んできました。たとえばニッスイの統合報告書を読むと、取り組みの姿勢がとても真面目な企業さんなんだなと改めて感じましたし、小林製薬であれば「あったらいいなをカタチに」というキャッチフレーズの通り、社員とたくさんのアイデア出しを行っているとか、味の素は1909年に始まった老舗企業でありながら最近ミッションを変えられて、統合報告書にも現場の声を多く掲載していたり。投資家がどこに投資を行うかという決め手にはなりにくいのかもしれませんが、組織を知るという意味では、とても意味のあるものだなあと思いました。

小林製薬株式会社の統合報告書(2022年12月期)p6より。「あったらいいな」を実現するために出しているアイデアは、なんと年間約5.7万件!(上)/ 味の素株式会社のASVレポート(統合報告書)p4より。新しいミッションが大きく掲げられている(下)

:「機関投資家から、投資額を」を目的に据えると、組織の個性の見える化が有効かどうかは、議論の余地があると思います。一方で、先の例にもあったパタゴニアやブルネロ・クチネリでいうと、会社の理念に共鳴することで、消費者が増えている。そこでは消費者こそが投資家で、だから、きちんと理念や風土が伝わる統合報告書が好まれますよね。「すべてのステークホルダーに向ける」は当然のこととして、そこをさらに深めないままに作ると、結局誰にも届かないものになり兼ねないですね。

渡邊さん:「各企業は、統合報告書発行の目的をどう据えているのか」というのも、いくつかの統合報告書を読みながら考えさせられました。団さんのいうように、お金を集める、会社の株価を上げることを目的にするなら、統合報告書がどこまで影響するのかという疑問もありますし、そもそもこれに労力を割くべきなのか。さらには、株価を上げること自体はどんな意義を持っているのか? も気になってきます。「なんかよく分からないけど、つくるものらしい」と捉えている企業も多いのかもしれません。

:企業の状態にもよるかもしれません。「社会に対して、私たちがどうあるべきか」を考える必要は感じているけれど、まだまだ経済状況が切実で、上場を維持しなければ、売り上げを倍にしなければ、という企業も中にはありますね。そういう企業の統合報告書を読むと、事業については細かく説明ができているけれど、それを通じたミッションや社会的貢献のあり方など、非財務情報はざっくりと抽象的に書かれていることが多い印象でした。これでは「考える余裕がありません」というメッセージを発信しているのと同じに見えてしまいます。

団が統合報告書に目を向けたきっかけは、とある企業からの制作相談。その企業が自身でつくった報告書をひとつの例に話は進む。

岩崎さん:そういう企業が統合報告書の作成を通して、自分たちは何をしているのか?と考えるプロセスを踏むことができるのは意義がありますね。社員にも浸透して、企業全体で共通認識を持つきっかけになり得るように思います。

須賀さん:そうですね。あと、私はニッスイの統合報告書を読んで、次からニッスイの商品を買おうと今思っているんですよ(笑)。ファンになったというか。消費者でもこうして読むことで企業の魅力が分かって、消費行為にまで及ぶ。そういう意義を統合報告書は、もうひとつ持っているように思いました。

須賀さんが読み込んでファンになったという、ニッスイグループの統合報告書(2023)p21より。

西村さん:縦割りの進んだ大きめの組織で、自分たちの全容を横断的に再認識する機会は、少し前だとコーポレートサイトの制作が担っていたと思います。会社が持っている、今の自分たちの立ち位置を示すレポートやサイトなどの手段はどれだけあるか。その整理をまず行い、目指す自社像を明確にしていく作業を通じて、よりよい会社になっていくことはできる気がします。統合報告書の完成そのものが、ゴールではないかもしれませんね。

渡邊さん:本格麦焼酎の「いいちこ」をつくる三和酒類株式会社は、『季刊iichiko』という冊子を発行していて、僕はそれが印象的でした。「文化学誌」と謳っているだけあってかなり学術的な情報が載っていて、文化的な視座も高く、デザインもいい。僕はこれを見て、三和酒類の捉え方が結構変わったんですよね。

三和酒類株式会社が発行する『季刊iichiko』ウェブサイトより。1986年から、「民俗」と「精神」のふたつのテーマを軸に発行され続けている。

岩崎さん:おもしろいですね。企業が報告するべきことは、自分たちの価値観や思想、組織や資本の構造、そして財務状況。大きくは、この3つなんだと思います。現状の日本企業の統合報告書は、フレームワークの基準に忠実に、組織や資本の説明をしているが、価値観や思想をきちんと打ち出せていないように感じます。そこに、課題がありそうです。

日本の代表企業・パナソニックが、統合報告書をつくるわけ

:先日、西村さんに紹介してもらって、パナソニック株式会社さんにヒアリングに行きました。そのときの話を、西村さん、ぜひ。

西村さん:はい。ヒアリングは、私と団さん2人で行きました。パナソニックの場合は、CSRレポートを発展させたかたちで、統合報告書を位置付けているそうです。その意義としては、自分たちはアカウンタビリティ(説明責任)を持って、透明度高く事業を行なっていることを示すこと。機関投資家向けや株主向けの資料は別でつくっているため、そういったものとは違う目的として報告書をつくっているそうです。

:慎重につくられている印象を受けました。パナソニックほどの大企業になると、機関投資家、金融機関はもちろん、国も目を通して、そこから指摘が入ることもあるそうです。だからサービストーク的に事実以上によく見せることはもちろんしないし、報告すべき実績を正しく書いていくという姿勢を強く感じましたね。

パナソニックグループの統合報告書(2023)p2より。グループの事業一覧と売り上げ等が端的にまとめられ、より詳しい財務情報へのアクセス先が明記されている。

西村さん:団さんは「統合報告書の編集課題は、経営課題そのものでは?」と投げかけて、パナソニックさんは「それは間違っていないと思うけれど、それなら経営会議にかかわらないと何も変えられないのでは?」と、やさしくおっしゃっていましたね(笑)

:はい。「編集課題を経営課題として上申できるかどうかは全く別の話です。そういう意味で言うと、広報課題も経営課題ですよ」ともおっしゃっていました。事実を淡々と述べるなかで、辻褄が合わなくなることはありませんか?と重ねて追加で尋ねてみると、「すっきりしないということはあるかもしれません。ただそれは各論ではすっきりしていても、総論でみると、すっきりしていないということが世の中にはあるものだからです」と。辻褄合わせに注力するのは適切ではなく、すっきりできるよう働きかけをしていくのは大切である一方で、全てがすっきりするものではない、ともおっしゃっていました。

席替えもしつつ、お茶も飲みつつ、さらに議論は深まっていきます。

メンバーが見つめるもの

西村さん:時間も深まってきたところで、僕たちはこれからどうしていこうか?というところも話していきましょうか。団さんからの声がけは、「統合報告書を通じて、企業がより良くなるきっかけをつくれないか?」だったわけだけど、そのモチベーションはそもそも何?

:継続性を持って世界に誇れる会社が、日本に一つでも二つでも増えていく過程に、僕らが多少でも影響を与えられるといいな、ということですかね。例えばアメリカに、ベテランの野球選手がこぞって通うジムがあるみたいなんですよ。歳を重ねて、自分の課題も明確で、そこからもう一歩の成長を、時間をかけて目指すようなジム。そういうきっかけとなる場を作りたいと思っているのかなあ。企業も成熟に向かうにつれて、さまざまな葛藤があると思います。そもそも、葛藤なくして成熟はないのですが、その葛藤に伴走しながら、ともに学べる道場みたいなものがあるといいんじゃないかなと思ったんですよね。

西村さん:うん。その支援のひとつのあり方として、統合報告書を使った企業研究もあるかもしれませんね。私は、北國銀行のものを2023年、2021年、2020年と遡って読んでみたんですが、たとえばそんなふうに、最新のものだけでなく変化の過程を、社会背景と合わせて時間軸に沿って見ていく。作家研究のように、ある企業を選んで研究することで見えてくるものもある気がしていて。その研究過程で、「良い会社って何だろう」「自社の場合でいえば?」ということが見えてくると、万々歳なんじゃないかなと思います。

渡辺さん:ひとつの会社の統合報告書を丁寧に読み解いた先で、最終的にその会社に対して提言を考えよう、みたいなアウトプットも、おもしろいかもしれないですね。ハードルはやや高いかもしれませんが、丁寧に読み込まれた会社側にとっても、自社を振り返るひとつの機会になりそうです。

須賀さん:私たちが今まさにこうして話しているように、全く違う業界の企業をケーススタディ的に学ぶだけでも、多くの価値がありそうですね。「こんなに環境に向けた配慮をしているんだ」とか「同じ業界でもフェーズが違うとこうなるのか」とか。私自身、統合報告書をとても興味深く読んだので、そこから「じゃあ自社としては何が強みと言えるのか」と反芻するには、とてもよいきっかけになるように思います。

岩崎さん:企業には、商品や労働を売ってお金を稼ぐという「市場」的側面だけでなく、人間が生きる場所という「社会」的側面があります。ですので、マネジメントも、事業のマネジメントだけでなく、従業員の労働や生活、社会や自然環境との関係のマネジメントも必要になります。そのどこにより強く重心を置くかで経営の仕方や会社の個性が変わるのだということが、「よい会社」を考える視点であるように思います。

:「会社は、もっと自由な存在であってもいいんじゃないか?」というのは、僕がずっと思っていることです。もちろん売上利益を目指す会社があっていいんだけど、それが前提・確定事項化して「よい会社とは何か?」を各社が問わないことは課題だと思っています。統合報告書はひとつのフレームワークに過ぎないけれど、それをきっかけとして、自社の在り方に目を向ける。そこからより良い会社を目指した実践が生まれていく。そういう場をつくっていけたらいいなと思います。

夜になっても話は尽きず、開催場所である葉山や三浦の食材で丁寧につくられた美味しい晩ご飯を皆で食べながら、「よい企業とは何か」について話し続けた合宿の夜。翌日にまで及んだようですが、私は初日で失礼しました。

この合宿を経て生まれた新しい場(活動)の誕生を、どうぞお楽しみに!


文責:熊谷麻那(アソブロック広報担当)

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