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「企画に必要なのは愛だ!」編集者・土館弘英の仕事論

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アソブロック株式会社で企画・編集の基礎を学んだのち、フリーの編集者として 『TV Bros.』(東京ニュース通信社が発行するテレビ情報誌)などで数々の名物企画に携わりながら、フリー編集者との兼業社員としてアソブロックに出戻りも果たした土館弘英。 アソブロックメンバーのなかでもとりわけ企画力に定評のある彼に、アイディアを生み出す秘訣を聞いた。

聞き手:SAKURA(フリーライター)

  

企画へのこだわりとアイディアを生む秘訣

――今回は土館さんの企画術に迫ります。企画をするうえでこだわっていることはなんですか?

やっぱりインパクトというか、前例のない企画をやりたいってことですね。「この手法や目線はいままでなかった!」っていうアイディアを出したい。そのために、過去の似たような企画とか、同じ目線での取材記事がないかは、結構調べます。タイトルを決めるときも、類似のタイトルがないかWebで検索する。

 

――アイディア自体は、どうやって生み出しているんですか。

頭の中とか携帯のアプリに、面白いことの種をいろいろメモってます。「この人がこんなことを言ってた」「深掘りすれば面白そうな知識だな」みたいなことを。ほんと適当にですけど。

 

――ちょっとそのメモ、見せてくださいよ。

だめです(笑)大したこと書いてないんで。

 

――でも、そのメモから企画を膨らませていくんですよね?

そうですね。ただ、メモをそのまま提案するっていうことはあまりなくて。企画の対象となる「お題」があるとして、最初はその「お題」にまつわる資料をとにかく読みこみます。新しい漫画を紹介する特集の企画が必要なら、とりあえずその漫画を読みまくる。そのあと、どこにフォーカスしたらその魅力が伝わるか、みたいなことを絞りますよね。そのフォーカスすべきポイントに対して、ストックしてあるメモのなかから「このネタと掛け合わせできるな」とか「あの人に頼んだら面白いかも」みたいにぶつけてみて、具体的な企画案をつくっていくイメージです。

 

――メモったアイディアが、すぐに企画に活きるというものでもないんですね。

そうそう。ずっとやりたかったネタが何年かごしでようやく陽の目を見る、なんてことも多いですよ。

 

――実際に「メモが活きた」ケースで、特にお気に入りのお仕事例があれば教えていただけますか?

結構前のものですが『TV Bros.』でやった「紙袋特集」ってやつですかね。

立案のベースにあったのは、特に女子に多いと思うんですが、人と何かを貸し借りするとき用にいい感じのショップバックをいくつか保有してるよねみたいな話をしていて、それおもしろいなーとメモしてたところから始まって。じゃあ特集として形にしてみようと作ったものです。「前略、お袋さま」っていう特集タイトルなんですけど。

・紙袋=人選でCOWCOWの多田さんだ!と思いつきイメージキャラクターに据える
・ ただのマニアネタに陥らぬよう製造元の企業にも取材して情報に厚みをもたせる(真面目にふざけた企画が好きなので)
・知り合いに片っ端から紙袋を提供してもらった上で、ここまで種類があれば、紙袋でその知人の一生を振り返れるんじゃないか?という思いつきから「紙袋だよ人生は」という年表形式のコンテンツを形に

などなど、みっちり好きな感じのネタを詰めこめたので、いまもお気に入りの企画ですね。

“紙袋”に注目した特集企画「前略、お袋さま」のなかのコンテンツ「 ~ 紙袋だよ人生は ~ 」

 

――『TV Bros.』などのマスメディア/エンタメ系の案件と、アソブロックで手がけるクライアントワークでは、企画の手法に違いはありますか?

いや、ベースは一緒ですよ。たしかにいま僕がアソブロックで担当しているのはわりと専門性の求められる企業モノの案件が多いですけど、エンタメにかぎらず堅い案件だろうと、ちょっとした面白みやジョークは入れたいと思っているし、なにより企画をつくる対象には “愛”を持ちたいと思っていて、そのスタンスは変わらないです。

 

―― “愛”ですか。

はい。僕は、企画を通じて紹介する対象のこともそうだし、企画に関わってくれる書き手や取材相手のことなんかも、とにかくめちゃくちゃ「好き」になって仕事をしたいんですよ。目がハートマークになるくらい好きになって作れば、同じようにそれらを好きでいてくれる読者にも失礼のないものができあがる気がするので。

たとえば堅い案件の例でいえば、3D-CAD(機械などの設計に使用する設計支援ツール)についてのコンテンツをつくったときなんかも、CADについて勉強して、資料を読み込んで、実際にCADを使って仕事をしている知り合いにも話を聞いて、アプローチの方法を探していきましたね。最初は自分にとってなじみの薄い分野でも、そうやって知識を得てわかってくることでだんだん「好き」になっていくし、好きになってくると、必ず面白そうなとっかかりも見つかるんですよね。

 

自分が目立つより「人と人を繋いだ仕事」で評価されたい

――アソブロックを出て一度フリーになり、違うジャンルの編集を経験したからこそ学べたことやできるようになったことってありますか。

そうですね……。こないだアソブロックの仕事で、幼稚園の採用パンフレットのなかに漫画を入れたい、っていうご要望があったんです。「そのプロットを考えてほしい」と言われたとき、意外とすんなり対応できた。昔だったら「えー、やったことないですよ!」って苦労しただろうけど、定期的に雑誌と関わってきたことで、引き出しが増えたのかなとは思いました。

 

――いろんな世界でいろんな仕事を経験するのって、やっぱり糧になりますね。いまの土館さんにとっては、企画ってどういうものですか?

昔から変わらないのは、自分は口下手なほうなので、言葉よりも企画をとおして思考開示することで周りから人となりを認めてもらいたい、っていうところ。企画は自分にとって存在証明でもあり、承認欲求を満たす手段でもあります。ただ最近は「俺が俺が」と自分をアピールしたい気持ちと、 媒体やクライアントから求められていることとのバランスが、ようやくいい具合に取れるようになってきたかなとは感じています。「これは自分らしさを出しすぎたな」「逆に出さなすぎて、言われるがままだな」みたいなトライアンドエラーを繰り返して、なんとかここまでたどりつきました。

 

――「俺が俺が」で失敗するケースというのはやや想像もできるのですが、自分らしさを出さなすぎて失敗するというのは、具体的にどういうケースですか

たとえば、企画に登場するタレントさんのキャスティングが先に決まってしまっているとき「いまその方に出てもらう意味がある企画」をうまく用意できなかったりとか……。もちろん人気のある方は、出てくれるだけで数字はとれちゃうんだけど、自分のなかではそれだけじゃダメなんですよね。出る人も見る人も喜んでくれて、ちゃんと有意義な企画をつくらないと、やっぱり悔いが残ります。

 

――たしかに、それは編集者の腕の見せどころですね。そんな風に時には苦い経験もしつつ、編集者としてレベルアップしてきた土館さん。最後に、これからどういう仕事をしていきたいか聞かせてください。

外で培った人間関係を、アソブロックにも流入させていけたらいいなとは思ってます。昔は自分のことしか考えてなかったから、人と人と繋ぐことなんて興味ゼロでしたけど、いまはそこに興味がありますね。だって、自分にできないことをやれる人たちを繋げていったら、どんどん見たことないものができるはずだから。自分が書き手みたいに目立つポジションに立たなくても、うまく人を繋げることができたら、それだけでめちゃくちゃうれしいです。というかいまはもう、そっちのほうが、自分が目立つことよりもうれしいかもしれない。

 

――「この企画、考えたのは俺だぜ!」って、言いたくならないんですか?

そうですねぇ。いまは「俺が作った」「俺の面白い企画」みたいな気持ちは昔に比べると全然ないです。やった仕事が評価されたら「でしょ? この人とこのネタを組み合わせたら、いいに決まってるんですよ」みたいな気持ち。僕はうしろでニヤニヤしていたいだけです(笑)。

 


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