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第73回 5月11日(土)
会場:東京国際フォーラム ガラス棟会議室




通算73回目の家族理解ワークショップ(東京開催)は、16名の方にご参加いただきました(初参加の方が5名)。その様子をレポートします。

【オープニングトーク】

オープニングトークでは、特に初参加の方がスムーズに場に馴染めるように、このワークショップで目指していることなどが講師の最近の興味・関心事に絡めながら話されます。

今回は、「悩みや課題が何もない状態を目標にしない」とは?という話。
担当ケースの来談者や、家族に問題が起こった場合など、人は「それらがキレイに無くなること」を望んでしまいます。しかし、人間の健康が「色々なことはあるけれど、なんとか元気でやれています」という状態であるのと同じように、家族の健康も「色々なことはあるけれど、なんとかやれています」という状態だと考えるべきではないでしょうか?

そうであるならば、「なぜ問題が起こったのか」と原因を追求したり「誰が悪いのか」と犯人を捜したりするよりも、「今の状態が大きく変わらないとしても、昨日より今日の状態が良くなるには、どんなことが起きればいいか?」と考える方が有用かもしれません。
このワークショップで学ぶ根幹にある「家族システム論」とは、そのように家族を捉えることです。
そして、その捉え方は何も専門的なことではなく、「家族に思いを馳せる」誰もが普通に持ち得る力についてであり、家族に関わる大概のことは、専門家になど頼らなくても、自分たちでなんとかできるということが話されました。

【セッション1】

セッション1は、講師が描く漫画エッセー、木陰の物語の中から「老化社会」の作品をみんなで見ることから始まりました。
「老化社会」の物語の背景に触れながら改めて語られたのは、このワークショップで学ぶあらゆることの基礎となる、家族システム論についてでした。

ワークショップには、児童に関わる人、高齢者に関わる人、医療関係者、学校の先生などあらゆる年代の「人に対してサービスを行う人(対人援助サービスと総称)」が参加されますが、そこで共通して役立つ考え方として学んでいるのが、「家族システムへの介入による解法」です。

「家族システムへの介入による解法」とは、問題とされる個人の内面に焦点を当てるのではなく、個人の持つ関係性、中でも家族という万人が共通で持つ関係性に焦点を当て問題解決を図ろうという考え方です。言い変えると「部分はいつも全体の中にある」と考え、全体(家族の関係性)に変化を与えることで部分(問題とされている事象)を解決に導こうとすることです。

例えば不登校の問題解決を検討する際に、不登校児の心の在り様に焦点を当てるのではなく、不登校児の家族の関係性に焦点をあて、その関係性に変化や刺激を与えることで、結果的に不登校状態が続かない状況をつくっていこうとします。

今回は、上記に加えて「振込詐欺、ネット詐欺、お金で引き受けた殺人、売春など、色々な問題とされることの真ん中に【お金】があるケースが増えているのではないか」ということも話されました。家族は否応なしにそのような社会の影響を受ける集団です。

例にあげられたケースである「友だちのロックバンドの音源づくりに必要だという50万円を、祖父から調達していた女子高校生の話」。誰が考えても正しいと思えない金銭の授受が、「おじいちゃんがお金くれないんだったら私は私のやり方で調達する!」という脅しにも近い言葉で履行されていました。そのことを咎める周囲の声に、おじいちゃんは「娘が売春でもしたらどうするんだ!」と返してしまう。ここで考えるべきは、家族システム論的に言えば「世代間の境界」についてなのですが、その入り口となるお話でした。

【セッション2】

セッション2は恒例で「参加者の3分間トーク」を行います。

普段の人付き合いが、職場の同僚を中心にどうしても固定化してしまう傾向がある中で、同じヒューマンサービスの職に携わりながらも、対峙する相手や取り扱う問題がまったく違う人と輪になり「最近私の周りでは…普段の人付き合いが、職場の同僚を中心にどうしても固定化してしまう傾向がある中で、同じヒューマンサービスの職に携わりながらも、対峙する相手や取り扱う問題がまったく違う人と輪になり「最近私の周りでは…」とお互いに報告し合います。今回は運営スタッフを含め5人グループに分かれて行いましたが、それはつまり、近接領域で今起こっているいくつもの話が同時に聞けるということです。

学校や病院や介護の現場、家庭や学生たちの間で起こっている問題。それぞれは個別的でも、同じ社会を構成する人に起こっている問題であることに変わりありません。そして、それぞれが本当にまったく無関係かというと、実はそうでもないことが多いのです。

幼稚園で起こっている問題が、形を変えて高齢者の現場で起こることがあります。保護観察所の中で起こっていることが、そのまま現代の家族に置き換えられる出来事だったりもします。それらを聞きながら、整理し、改めて自分の現場や家庭で役立ててもらおうというのが、このセッションの目的です。

3分の話を聞いた後は、それをネタに7分間、メンバーでディスカッションします。すると、そこで起きている問題や課題がより明確化したり、あるいはメンバーの意見を聞くことで、発表者が事実をこれまでと違う視点から見られるようになったりします。参加前は「この3分間トークが不安で…」とおっしゃる方も時々いらっしゃるのですが、実際にやってみると、なんてことはない職場や家庭での雑談を、普段とは違うメンバーで行う感じで楽しいのですよ。



【セッション3】

セッション3は、ジェノグラムを使った事例検討が行われました。
ジェノグラムとは家族関係を図示するものですが、このワークショップで繰り返し学ぶ技術です。この技術を学び・使い・経験を積み重ねることで、

・ジェノグラムを見て、家族関係のバランス・アンバランスを感じ取ることができる
・バランス、アンバランスから具体的な援助プランを考えることができる

というメリットがあります。対人援助職者が携わる多くの問題は、「家族」というステージの上で起きています。不登校も、DV問題も、離婚問題も、養育放棄も、介護問題も、その多くに共通するステージとして、家族があります。そのため、援助の第一歩はまずステージの状況を正しくアセスメントすること、つまり家族の構造を理解することです。

インタビューの際にポイントになるのが、「境界・サブシステム・パワー」という三つの要素およびその機能状況です。例えば「パワー」とは家族の中で決めごとをするときに「誰が」「どのように」行っているかという決定のプロセスのことを指します。

問題を抱える家族においては、それら三つのファクターの何かが「一般的ではない」ことが多く、アセスメントにおいてはそれを「家族の特徴」と見なします。そして、その特徴が問題とされる事項になんらかの影響を与えていることが多いのです。

例えば、本来であれば夫婦で話し合って決めるべきことを上世代が決めてしまっているようなケース。子どもが行く小学校を、跡取り問題に紐づけておじいちゃんが決めました、などは一般的ではありません。それで上手く行っていれば何の問題もないのですが、仮にその経緯を踏まえて小学校に通っていた子どもが不登校になってしまったような場合は、不登校問題のように見えて、実はそうではないのかもしれません。

当事者にとっては「当たり前」になってしまっている「家族の特徴」を「一般的なそれ」に戻すことで家族というステージを整える。その結果、問題が解決に導かれることも案外多い。ざっくり言えば、これが「家族システムへの介入による解法」です。

今回は、90歳男性、57歳男性、56歳女性、23歳男性、17歳女性の5人で暮らし世帯に起こった「問題とされる出来事」の検討でした。チームに分かれて意見交換をしていると「90歳はどちらの父なのか」「この家の持ち主は誰か」「経済的に困窮しているのか、していないのか」「90歳は健康なのか、そうではないのか」など、色々な見方や意見が出てきます。正解を当てることが大事なのではなく、少ない情報の中でどれだけその周辺でありそうなことに想いを馳せることができるか? これが支援の質を左右すると講師は語ります。

【クロージングトーク】

ラストは木陰の物語の中から「無駄遣い」の作品を観ながら、「正しさが持つ罠」について話がありました。講師は「人はつい、正しいことを言おうと思ってしまう」ということを常々口にします。しかし、少なくとも対人援助の現場で必要とされているのは、「正しいこと」ではなく「役に立つこと」。「無駄遣い」の作品にも、それを示唆する場面が出てきます。人を助けたいと考えた時に、説明や解説ばかりが上手になっても事態を打開できるわけではありません。大切なのは変化であり、そのための具体的なアイデアを提案できる援助者でいてほしいという言葉で、会は結ばれました。

そんなこんなで、あっという間の6時間。
今回も学びと笑いが絶えないワークショップでした。

次回v74は、8月10日土曜日に開催されます。
レポート執筆時点では会場がまだ未定なのですが、決まり次第お知らせしますので、専門職の方から、お母さん・お父さんまで、次回もたくさんの方のご参加を、お待ちしています!

※文中に出てくるケースや実例の内容等は、実際の講義と一部変更している場合があります
※本ページ内の画像はイメージ写真です。実際の様子とは異なります

文責/団遊
【今回の参加者の職業・所属等(参加申込書より)】

社会福祉士、弁護士、主婦、会社員、相談員、保護観察官、公務員、スクールカウンセラー、家族相談士、児童養護施設職員、児童相談所職員、相談職、幼稚園園長

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