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ローカルメディアの作り方│編集のプロが教える、メディア制作のエッセンス。

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コロナ禍を経て、にわかに注目を集めている国内向けコンテンツ。

リモートワークが浸透しつつあり、働き方や住まいの選択肢も広がるなか、都市部も郊外も地域の魅力発信の重要度が増しています。

今回は、大阪の中之島エリアで10年にわたりローカル誌『月刊島民』を発行しつづけ、“地域の顔”にまで育てあげた編集のプロの視点から、「立ち上げのポイント」と媒体の顔となる「特集づくりのコツ」をご紹介します。

観光や移住促進、地元の活性化に取り組む担当者をはじめ、地域の魅力発信のための媒体制作をお考えの方はもちろん、各種媒体制作に取り組もうとする方で何から手を付けたら良いのか見当もつかない、手がかりが欲しいという方は必見です。

また、コンセプトの深め方やテーマのカテゴライズなどは、社内報や業界向けメディアなどに応用してみても面白いかも知れません。

 

『月刊島民』(2008-2020)

大阪の都心にありながら、川に挟まれた“島”の街・中之島。オフィスや公園、美術館、ホテル、病院、住宅があり、歴史的建造物も建つ濃密なエリアです。ここで暮らし、働く「島民」へ向けて有意義な情報を発信し、中之島への愛着を深めてもらうためのメディアとして2008年夏に創刊。最終号となった2020年3月号まで約12年間・通算136号にわたり愛されたローカルマガジンです。

Phase1:コンセプトの設定

ローカルメディアにおける「コンセプト」は、どのような視点でまちやエリア情報を発信するのか、その立脚点となるものです。メディアの根幹に関わる部分なので、じっくりと取り組みたいところです。

 

コツ①エリアのキャラクターを浮き彫りにする

コンセプトには、生活者やそこに集う人々の「身体的」な実感が重要でしょう。
どのようなモノ・コト・感覚がそのエリア的であるか、また反対にどのようなものは「そうではないのか」を確認することも大切。その見極めをする必要があります。

中之島は、歴史や名建築に囲まれ、オフィスビルの中の食堂や喫茶店、洋品店といった街に根付いた店舗がエリアの性格を形づくっており、“かわいい”“レトロ”よりは“シブい”がより本質に近いのではないか。
『月刊島民』では、中之島をグルメやショッピングといった消費の場としてではなく、あくまでその街で生活する人々、すなわち島民の「生活の場」という視点で見つめることがファーストコンセプトでした。

 

コツ②他エリアと比較する

一方で、他のエリアと比較することでも、エリアの輪郭を明確にできます。

例えば、川に囲まれているというロケーションだとすると、それだけでも十分に個性的ですが、国内のほかの水辺の街と比較することで、さらにエリアの持つ魅力がはっきりしてきます。

 

ポイントは、“想像力”と“客観的な視点”

「生活する人々の視点で街を見つめる」ことで地に足のついた体感を得て、「他のエリアとの比較から客観的な分析を導く」ことで、冷静で俯瞰的な理解を深める。その両面から、街の性格を形づくるものは何かを考えましょう。

考えることの積み重ねがメディアとしての姿勢となり、担当編集者独自の視点を養うことにも繋がります。
ローカルメディアにとってのコンセプト設定は、そのエリアの本質を探ることにつきるのです。

 

Phase2:特集テーマを立てる

次に、メディアの顔ともいえる特集記事について考えてみましょう。
そのエリアの在住者や来訪者(=読者)は、あらかじめ何らかの知識や関係性をそのエリアに対して持っています。
立てたテーマが読者の持つエリア・イメージに含まれているものなのか、そうではないのか。
また、そのテーマに関して読者はどの程度前提となる知識を持っているのか。
テーマと読者との「距離感」を測りながら、どうすれば面白い企画になるのかを考えていきます。

時代の流れも意識しながら、面白いと感じる実感に、他の人にとってはどうかという客観的な視点を照らし合わせることが、ここでもやはり大切です。

では、どのような「距離感」があるのか。いくつかのパターンに分けて見てみましょう。

 

パターンA)やっぱり  

イメージ=★★★  知識=★★★

もっともテーマを見つけやすく、誌面もつくりやすい読者のイメージに寄り添ったもの。しかし、よく知られているだけに他のメディアなどの焼き直しにならないように。王道なだけにライバルも多く、メディアのスタンスが試されます。

 

パターンB)気になる!(ニュース)

イメージ=★★☆  知識=★★☆

新しいものはそれだけでニュースになり、「知りたいことが載っている」というメディアとしての信頼にも繋がります。ただし、誰もが取り上げそうなニュースは独自色を演出するか、ストレートに伝えた方が喜ばれるか、伝え方に気を配るべきです。

 

パターンC)意外と…

イメージ=★☆☆  知識=★☆☆

エリアのイメージを反転させるようなテーマやこれまでになかった動きを取り上げることは注目を集めやすいでしょう。しかし、知らないことを求め過ぎるあまり、重箱の隅をつつくような知識が並んでいるだけ…というものにはならないように。

 

パターンD)そう言えば?

イメージ=★★☆  知識=★☆☆

普段はまったく意識しないものや実はよく知られていないものが、案外魅力的で学べることも多く、読者の気づきに繋がります。単なるマイナー主義にならないよう、なぜ今このテーマなのかの説明が必要です。

 

ポイントは、各カテゴリーに当てはまる話題をバランスよく提供すること

発行回数を重ねていく中では、このような読者が抱く印象を意識してバランスを取ることが、ローカルメディアにとっては大切です。
Aばかりではミーハーなものになって「もう知ってる」と飽きられそうですし、すぐにネタがなくなるでしょう。
Bに特化しようとしても、そう毎回大きなニュースなどありません。
C・Dばかりにしてローカル性を強調しようとし過ぎると、小難しい印象で取っ付きにくくなるうえ、視点がマニアックな方向へ偏ってしまいます。
それに不要不急の内容だけでは、継続的に興味を持って読んでもらえないでしょう。


もっと知りたいという方へ!

無料ダウンロード資料として、特集テーマを立てるための『読者との距離感マトリクス』を準備しています。上で述べたA〜Dのカテゴリーにキーワードを分類し、特集企画へと昇華させる方法や『月刊島民』を例に用いた事例を記載しました。ぜひ、ご活用ください。

ローカルメディア編集術 地域の魅力を引き出す特集テーマの立て方

ダウンロードはコチラから

今回は、『月刊島民』という紙媒体をもとに、“ローカルメディアのつくり方”について触れてみました。

もちろん、メディアづくりにはほかにも解決すべき事柄がたくさんあります。
・メディアのタイトルはどう決める?
・デザインの方向性の打ち出し方は?
・連載企画の立て方、つくり方は?
など、さまざまな編集的視点が必要です。

掘れば掘るほど深いのが「編集」。
今回ご紹介しきれなかったことは、また次の機会に。


記事執筆:株式会社 編集七味
“編集力でおせっかい”をモットーに、大阪、東京、名古屋を拠点に地方PR、企業PR、地域情報等さまざまな媒体やコンテンツを手掛ける編集者集団。

​記事監修:大迫 力(編集者/元『月刊島民』編集・発行
大阪・中之島を舞台にしたフリーマガジン『月刊島民』に2008年の創刊時から携わり、2016年11月から編集・発行人を務める。書籍、企業広報誌、WEBコンテンツなど各種メディアの立ち上げ・編集業務のほか、講演や大学非常勤講師など多方面で活動中。

 

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